本社と支店、工場、倉庫をVPNでつないでいるが、設定した担当者が退職してから中身を誰も把握していない――そんな状態のまま運用を続けている会社は少なくありません。「つながっているから大丈夫」という状態と「安全に守られている」状態は別物です。
1. VPN設定ミスが起こる原因
拠点間ネットワークは、事業拡大のたびに拠点が増え、その都度「とりあえずつながればいい」という優先順位で設定が積み重なっていきます。導入時の設計書が残っておらず、後から見返しても誰がなぜその設定にしたのか分からないケースが目立ちます。
もう一つの原因は、VPN機器のファームウェアやOSのアップデートが放置されがちなことです。拠点側のルーターは一度設置すると触られないまま数年が経ち、既知の脆弱性が残った状態で外部と常時接続されている、という状況が生まれます。
さらに、設定作業が特定の担当者や外部業者に属人化していることも要因です。担当者の異動・退職で管理パスワードや設定内容が引き継がれず、社内の誰も全体構成を説明できない「ブラックボックス化」が起こります。
2. 今すぐできる応急チェック
まずは大がかりな改修に着手する前に、現状把握から始めます。以下の項目を確認するだけでも、危険な設定を早期に見つけられます。
- VPN機器・ルーターの管理画面に、初期パスワードのまま、または簡易なパスワードでログインできないか
- 拠点間の通信が暗号化方式の古い設定(脆弱とされる旧世代の方式)のまま運用されていないか
- 本来は特定の拠点間だけで許可すべき通信が、社内ネットワーク全体に対して開放されていないか
- VPN機器のファームウェアが最新版に更新されているか、サポート切れの機種を使っていないか
- 設定変更やログイン履歴を確認できるログが残っているか、誰も見ていない状態になっていないか
3. 根本的に解決する手順
応急チェックで問題が見つかった場合、その場しのぎのパスワード変更だけで終わらせず、ネットワーク構成そのものを見直すことが根本解決につながります。どの拠点からどの拠点へ、どの範囲の通信を許可するのかを明文化し、不要な経路を遮断します。
あわせて、VPN機器の認証方式を強化することも重要です。ID・パスワードだけに頼らず、証明書による認証や多要素認証を組み合わせることで、パスワードが漏れただけでは侵入できない構成にできます。
拠点数が多い、あるいは古い機器が混在している場合は、設計を一度リセットして構成図・設定内容・接続ルールを一式で文書化しておくと、その後の運用と引き継ぎが格段に楽になります。
4. 再発させないための運用の仕組み
設定を直しても、運用の仕組みがなければ同じ問題が数年後に再発します。VPN機器のファームウェア更新を定期的に確認するルールを決め、誰が・いつ・何を確認するかを明確にしておくことが必要です。
また、担当者の異動・退職に備えて、設定情報や管理パスワードを個人ではなく組織で管理する体制に切り替えることも欠かせません。属人化を解消しておけば、担当が変わっても安全性が落ちません。
年に一度など定期的に、外部の目で設定状況をチェックする機会を設けておくと、社内では気づきにくい見落としを早期に発見できます。
5. 自社対応と外部委託の判断基準
拠点数が少なく、社内に詳しい担当者が常時在籍している場合は、応急チェックと定期的な更新運用を自社で回すことも可能です。ただし、担当者が一人しかいない、あるいは兼務で片手間に見ている状態であれば、その人が不在の間は無防備になるリスクを抱えています。
拠点数が多い、機器の種類がばらばら、過去の設定経緯が不明といった状態であれば、無理に自社だけで解決しようとせず、専門家に構成の棚卸しから依頼する方が結果的に早く安全になります。設定ミスは「気づかないこと」自体がリスクなので、第三者の目を入れる価値は大きいです。
データで見るVPN管理のブラックボックス化
経済産業省「レガシーシステムモダン化委員会総括レポート」(2025年5月公表)によると、ユーザー企業の61%が老朽化・ブラックボックス化したシステムを保有しています。VPN機器も設置から数年が経てば同じ状態になり、設定の経緯を説明できる人が社内にいなくなります。総務省「令和7年版情報通信白書」(2025年7月公表)では、デジタル化の課題として最も多く挙がったのが「人材不足」で48.7%でした。確認する人がいないことが、設定放置の背景にあります。
外部委託していれば安心とも言い切れません。帝国データバンク「『ソフトウェア業』の倒産動向(2024年度)」(2025年4月公表)によると、2024年度のソフトウェア業の倒産は220件で前年度の約1.4倍に増え、そのうち8割以上が従業員10人未満の小規模事業者でした。設定を任せた業者が対応できなくなる可能性は、現実的なリスクとして考えておく必要があります。自社に詳しい担当者がいない、かつ委託先が小規模一社のみという状態なら、構成情報を自社の手元に残す作業を先に進めてください。
- 設置から3年以上更新していないVPN機器は、老朽化の対象として棚卸しリストに入れる
- 設定内容・管理パスワード・構成図を、委託先だけでなく自社側にも保管する
- 委託先が小規模の場合、担当者1人に依存していないかを契約更新時に確認する
出典
- 総務省「令和7年版情報通信白書」(各国企業のデジタル化の状況)(2025-07公表) www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/r07/html/nd21b210.html
- 経済産業省「レガシーシステムモダン化委員会総括レポート」(IPA公開ページ)(2025-05公表) dx.ipa.go.jp/modernization
- 帝国データバンク「『ソフトウェア業』の倒産動向(2024年度)」(2025-04公表) www.tdb.co.jp/report/industry/20250423-software-br24fy/
※ 2026年9月12日 に公的統計をもとに追記しました。
まとめ
VPNの設定ミスは、悪意ある攻撃を待たずとも、放置と属人化だけで情報漏えいの入り口になります。まずは管理画面のパスワードと通信範囲、機器の更新状況を確認し、問題があれば通信ルールの見直しと認証強化、そして組織での管理体制づくりまで進めることが重要です。最初の一歩として、自社のVPN機器の管理画面にログインし、パスワードとファームウェアのバージョンを今日中に確認してください。
By Affelhansa Strategic Research

