「担当していた開発会社に何度連絡しても返事がない」「請求書の宛先すら分からなくなった」——システムやホームページを外部に任せていた企業ほど、この壁にぶつかりやすい。改修や不具合対応が必要になったとき、頼れる先が消えてしまうと、業務がそのまま止まりかねない。まずは慌てず、保守移管の前に確認すべきポイントを整理しよう。
1. 前の開発会社と連絡が取れなくなる原因
小規模な受託開発では、担当者一人がほぼすべての仕様を把握しているケースが少なくない。その担当者が退職や独立をすると、会社としての引き継ぎ体制が整っていないまま連絡が途絶えてしまうことがある。
開発会社自体が廃業や事業縮小をするケースもある。ホームページ制作やAccess・Excelを使った小規模システムの受託は、少人数の会社や個人事業主が担っていることが多く、契約更新のタイミングで自然消滅的にサポートが終わることも珍しくない。
さらに、当初の契約が「開発一式」で完了しており、保守契約を別途結んでいなかった場合、開発会社には問い合わせに応じる義務がなくなる。連絡がつきにくくなるのは、こうした契約範囲の問題も背景にある。
2. 保守移管の前にまず確認する5つのこと
開発会社と連絡が取れないと分かった時点で、慌てて新しい業者を探す前に、自社が今どんな情報を持っているかを棚卸しすることが先決だ。以下の5点は、どの業者に依頼するにしても必ず必要になる情報である。
これらが手元になく、開発会社しか持っていない状態だと、その後の復旧にかかる時間と費用が大きく変わってくる。特にサーバーやドメインの管理者アカウントが分からないと、トラブル発生時に誰も対応できなくなるため優先度が高い。
- ソースコード一式が自社にあるか。Gitなどのバージョン管理で保管されているか
- サーバー・ドメイン・SSL証明書の契約名義が自社になっているか、管理画面にログインできるか
- データベースの構造とバックアップの有無、保管場所
- 使用しているプログラミング言語・フレームワーク・ライブラリとそのバージョン
- 契約書・仕様書・保守範囲を記した書類が残っているか
3. 保守を引き継ぐ具体的な手順
情報の棚卸しが終わったら、次は引き継ぎ先を決めて実際に移管を進める段階に入る。順番を間違えると、権限の確認漏れなどで後戻りすることになるため、下記の流れで進めるとよい。
特に重要なのは「情報の確保」を最初に行うことだ。契約や交渉より先にバックアップを取っておけば、万が一サーバー契約が失効しても最悪の事態は避けられる。
- 現行環境からソースコード・データベースの全体バックアップを取得する
- サーバー会社・ドメイン管理会社に連絡し、契約者情報と管理画面のログイン権限を確認する
- 新しい保守会社にコードとインフラ構成を確認してもらい、現状の健全性を診断してもらう
- 復旧・改修が必要な箇所と緊急度を整理し、優先順位をつける
- 今後の保守範囲・対応時間・費用を明記した契約を結び直す
4. 同じトラブルを繰り返さないための仕組み
保守移管が完了した後も、次に同じ状況に陥らないための仕組み化が重要だ。ここで手を抜くと、数年後にまた同じ問題に直面することになる。
具体的には、ソースコードやドキュメントを自社側でも保管する、複数の担当者・部署でアカウント情報を共有する、保守契約の範囲と連絡体制を書面で明確にしておく、といった対策が有効だ。
特にAccessやExcelで組んだ独自システムは、開発した本人以外は中身が分からないことが多い。仕様書や設計資料をきちんと残しておくことが、将来のリスクを大きく減らす。
5. 自社対応と外部依頼、どちらを選ぶべきか
ドメイン契約者の確認や書類の探索といった情報収集は、自社でも十分に対応できる。まずはここから着手して問題ない。
一方、ソースコードの解析、脆弱性の有無の確認、データベース構造の把握など専門知識が必要な部分を無理に自社で進めると、かえって時間がかかったり、セキュリティ上のリスクを見落としたりする恐れがある。
判断の目安は、システムが止まった場合の事業への影響度と、扱っているデータの機密性だ。顧客情報や個人情報を扱っているシステムであれば、早い段階で専門家に相談したほうが結果的に安く早く済むことが多い。
データで見る中小企業のシステム依存
総務省「令和6年通信利用動向調査」(2025年公表)によると、クラウドサービスを利用している企業の割合は80.6%で、過去10年でおよそ倍増している。同調査では、クラウドを利用している企業のうち効果が「あった」と回答した企業は88.2%にのぼる。効果が出ている一方で、サーバーやドメインの契約名義、管理画面のログイン権限といった「鍵」の所在は社外に散らばりやすくなっている。
日本政策金融公庫「中小企業のデジタル化に関する調査」(2024年公表)によると、5年前と比べてデジタル化が「かなり進んでいる」「やや進んでいる」と回答した中小企業は69.6%だった。同調査では、デジタル化に取り組む企業のうち販売管理システムを導入しているのは62.1%で、ホームページ・SNS(88.5%)や会計システム(86.9%)より低い。導入企業が少ない領域ほど個別開発に頼りがちで、担当した開発会社しか中身を知らない状態になりやすい。
判断の目安は、止まったときに業務が何日続けられるかである。そこから逆算し、影響の大きいシステムから順に契約名義とログイン情報を確認しておけばよい。
- クラウド利用企業は80.6%(総務省「令和6年通信利用動向調査」2025年公表)
- クラウドの効果が「あった」企業は88.2%(同調査)
- デジタル化が進んだと回答した中小企業は69.6%(日本政策金融公庫「中小企業のデジタル化に関する調査」2024年公表)
- 販売管理システムの導入は62.1%で、会計システム86.9%より低い(同調査)
出典
- 総務省「令和6年通信利用動向調査」(令和7年版情報通信白書に掲載)(2025-07公表) www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/r07/html/nd111210.html
- 総務省「令和6年通信利用動向調査」報道資料(2025-05公表) www.soumu.go.jp/menu_news/s-news/01tsushin02_02000178.html
- 日本政策金融公庫「中小企業のデジタル化に関する調査」(2024年1〜3月期実施、取引先中小企業12,080社に調査・4,350社回答、回答率36.0%/日本商工会議所ニュース掲載)(2024-06公表) www.jcci.or.jp/news/news/2024/0605173117.html
- 日本政策金融公庫「中小企業のデジタル化に関する調査」(2024年1〜3月期実施、4,350社回答/日本商工会議所ニュース掲載)(2024-06公表) www.jcci.or.jp/news/news/2024/0605173117.html
※ 2026年9月12日 に公的統計をもとに追記しました。
まとめ
前の開発会社と連絡が取れなくなっても、慌てる必要はない。まずソースコード・サーバー権限・データベース・使用技術・契約書という5点を自社で整理し、そのうえで新しい保守先に現状診断を依頼して契約を結び直せば、システムは問題なく引き継げる。今日できる最初の一歩は、社内に眠っている契約書やログイン情報を一度すべて集めてみることだ。
By Affelhansa Strategic Research

