NTTドコモビジネスとエクサウィザーズが2026年8月17日、企業の専用環境で機微データを安全に活用できる「クローズドAIエージェント」を共同開発し、同日から提供を始めたと発表しました。設計図面や契約情報、顧客情報といった外部に出せないデータを扱う企業でもAIエージェントを使えるようにする仕組みです。
1. 発表の中身:閉域網と専有GPUで機密データを守る
エクサウィザーズは2026年8月17日、NTTドコモビジネスと共同開発した「クローズドAIエージェント」を同日から提供開始したと発表しました。閉域ネットワーク経由の専用環境と、企業ごとに割り当てる専有GPU(画像や文章の処理を高速に行う専用の演算装置)を採用しており、データを外部に持ち出さない設計になっています。
提供形態はプライベートクラウド版とオンプレミス版(自社設備内で運用する形態)の2種類。対応するAIモデルはNTTの国産LLM(大規模言語モデル)「tsuzumi 2」をはじめ、幅広いオープンソースLLMに及びます。基盤には、エクサウィザーズのAIエージェント開発・運用基盤「exaBase Studio」と、NTTドコモビジネスが持つ閉域ネットワーク・データセンター・GPU基盤の知見が組み合わされています。
2. 背景:機密データを扱う企業ほどAI活用に慎重だった
生成AIやAIエージェントの業務活用は急速に広がっていますが、設計図面や契約情報、顧客の個人情報など機密性の高いデータを扱う企業では、クラウド型AIサービスへの入力に慎重な姿勢が続いてきたとみられます。情報漏えいのリスクや、取引先との守秘義務契約との兼ね合いから、AI導入自体を見送る判断も少なくなかったと考えられます。
今回の発表は、そうした「機密データゆえにAIを使えない」という課題に対し、通信インフラ企業とAI企業が連携して閉域環境という選択肢を用意した動きと言えます。オンプレミス版まで用意されている点から、自社のセキュリティ基準を厳格に保ちたい企業のニーズを意識した提供形態とみられます。
3. 中小企業への影響:選択肢は増えるが、今すぐの導入対象は限定的
今回のサービスは大企業や、専有GPU・専用環境を用意できる規模の組織を主な想定顧客としている可能性が高く、中小企業が明日から契約できるものではないかもしれません。ただし、こうした「閉域AI」という選択肢が市場に登場したこと自体は、中小企業にとっても意味があります。設計図面や顧客情報を扱う製造業・士業・医療関連などの業種では、将来的にコストが下がれば導入候補になり得ます。
一方で、現時点で一般的なクラウド型AIツールを使っている中小企業にとっては、直接の運用変更は不要です。ただし、機密データをどのAIサービスにどこまで入力してよいか、社内ルールが曖昧なまま使っているケースがあれば、今回のニュースを機に見直す価値はあります。
4. 今できること
- 様子見でよいこと:クローズドAIエージェント自体の導入検討(対象は大企業規模が中心とみられ、中小企業向け料金体系はまだ不明)
- 今すぐ試せること:自社が扱う顧客情報・契約情報・設計図面などのうち「AIに入力してはいけないデータ」を洗い出し、社内ルールとして明文化する
- 今すぐ試せること:現在利用中のAIツールが、入力データを学習に利用する設定になっていないか確認する
- やってはいけないこと:確認せずに顧客の個人情報や契約書の内容をそのまま生成AIに貼り付けて使う
- やってはいけないこと:機密データの取り扱いについて、担当者任せにして会社としてのルールを作らないままにする
データで見る中小企業の情報セキュリティルール
機密データをAIに入力してよいかを判断するには、その前提として社内ルールが整っている必要があります。しかしIPA(独立行政法人情報処理推進機構)が2025年5月に公表した「2024年度 中小企業における情報セキュリティ対策に関する実態調査」(中小企業4,191社へのウェブアンケート)によると、情報セキュリティに関する社内ルールを定めている中小企業は39.2%にとどまります。緊急時の対応体制を整備している企業も39.8%で、いずれも4割に届いていません。
一方で、同じIPAの2025年5月公表の調査では、OSやソフトウェアを最新の状態にしている中小企業は73.0%、ウイルス対策ソフトを導入している中小企業は71.4%と、7割を超えています。ツール導入は進んでいるが、운用の判断基準を文書化する段階で止まっている構図が読み取れます。閉域AIのような技術的な仕組みが登場しても、どのデータを外に出さないかを決めるのは各社のルールです。自社が今回のニュースで見直すべきなのは契約先のAIサービスではなく、まず社内に判断基準があるかどうかです。
- IPAの2025年5月公表調査では、社内ルールを定めている中小企業は39.2%、緊急時の対応体制整備は39.8%
- 同調査でウイルス対策ソフト導入は71.4%、OS・ソフトの最新化は73.0%と、対策ツール自体は7割超が導入済み
- ツールは入っていてもルールがない状態では、AIへの入力可否は現場の担当者判断になる
- まず「AIに入力してはいけないデータ」を一覧化し、既存のセキュリティ規程に追記するところから着手する
出典
- IPA(独立行政法人情報処理推進機構)「2024年度 中小企業における情報セキュリティ対策に関する実態調査」(調査期間2024年10月〜2025年1月、中小企業4,191社)(2025-05公表) www.ipa.go.jp/security/reports/sme/sme-survey2024.html
- IPA「2024年度 中小企業における情報セキュリティ対策に関する実態調査」(中小企業4,191社、ウェブアンケート)(2025-05公表) www.ipa.go.jp/security/reports/sme/sme-survey2024.html
※ 2026年9月12日 に公的統計をもとに追記しました。
まとめ
NTTドコモビジネスとエクサウィザーズは2026年8月17日、機密データを外部に出さずに使える「クローズドAIエージェント」の提供を開始しました。対象は専用環境を用意できる規模の企業が中心とみられますが、中小企業にとっても「AIに機密データをどこまで入力してよいか」を見直す良い機会です。まずは自社の機密データの範囲を洗い出すことから始めましょう。
参考情報
- エクサウィザーズ プレスリリース(2026-08-17)
- BUSINESS NETWORK(2026-08-17)
※ 2026年8月23日 時点の公開情報をもとに作成しています。
By Affelhansa Strategic Research

