既存製品の脆弱性が次々と露呈する現実 —— セキュリティの“基盤”が揺らぐ時代
我々が日々利用するITシステムの多くは、企業や公共機関の基盤として動いています。その裏側では、さまざまなネットワーク機器や管理ツール、クラウド環境が複雑に絡み合っています。しかし、こうした基盤となる製品に重大な脆弱性が相次いで発見され、実際に悪用されるケースが増加していることが、2025〜2026年のセキュリティニュースで大きな話題になっています。
特に注目すべきは、広く使われているインフラ系製品である**SolarWindsやFortinet**製品における脆弱性の露呈とその影響です。これらのツールは世界中の企業で業務運用やセキュリティ管理に用いられているため、脆弱性が放置されれば影響は局所的なものに留まらず、広範囲に波及します。
SolarWinds製品で発覚した複数のクリティカル脆弱性
SolarWindsは長年にわたりネットワーク管理やヘルプデスク支援ツールを提供してきましたが、**2026年1月に公開された「WHD(Web Help Desk)」に複数の重大な脆弱性が含まれていることが明らかになり、メーカーは緊急パッチをリリースしました。**これらは認証バイパスやリモートコード実行(RCE)といった、攻撃者が未認証のまま遠隔から任意の命令を実行できるタイプの脆弱性です。ソフトウェアに存在する「信頼できないデータのデシリアライズ」や認証回避の欠陥が、攻撃者側の侵入を容易にするポイントとなりました。こうした欠陥はクリティカルと評価され、企業など多くの環境で早急なアップデート適用が求められています。
特にCVE-2025-40551のような脆弱性は、アメリカのサイバーセキュリティ機関(CISA)が「Known Exploited Vulnerabilities(悪用が確認された既知の脆弱性)」カタログに登録するほど重大視されています。これにより、攻撃者は公開済みの欠陥を実際に狙い、システムの制御を奪取する事例も報告されています。
この手の脆弱性が生じる背景には、ソフトウェアの設計やライブラリの依存関係、複雑化したコードベースの管理の難しさなど、技術基盤そのものが抱える構造的な課題が影響しています。
Fortinet製品における認証回避と攻撃の広がり
同様に、ネットワークセキュリティ機器で圧倒的なシェアを持つFortinet製品群も、複数の深刻な脆弱性に見舞われています。FortinetはFortiWeb、FortiOS、FortiProxy、FortiSwitchManagerといった製品にクリティカルな欠陥があることを公表しており、そのうちのいくつかは既に実際の攻撃として悪用されている事例が確認されています。
たとえば、CVE-2025-64446はFortiWebの認証バイパスを引き起こす重大な脆弱性で、攻撃者が未認証で管理者権限を奪うことが可能とされています。これはリモートからの不正アクセスを許してしまう欠陥であり、脆弱性評価スコアでも最も高い「クリティカル」と評価されました。
また、**FortiOSで発見された認証回避脆弱性「CVE-2024-55591」**では、攻撃者がログインを回避し、管理者権限を握る可能性を指摘する注意喚起が行われています。実際に国内でも悪用が継続して観測されていることから、企業や組織が迅速にパッチ適用や侵害後の調査を実施する必要があります。
さらに、2026年1月には**SSO(Single Sign-On)機能を悪用する新たな認証バイパスの脆弱性(CVE-2026-24858)が確認され、米国のセキュリティ当局が積極的に対策を求めている状況です。**この種の欠陥は、ユーザー認証の信頼性を根本から揺るがすため、非常に深刻なリスクとなります。
このような脆弱性の連鎖が示すのは、単一製品の欠陥が広く使われるネットワークインフラ全体のリスクにつながるという現実です。
なぜ脆弱性が“悪用される”まで放置されてしまうのか?
ここで疑問となるのが、なぜこうした脆弱性が発見されても攻撃者に先んじて修正されないケースがあるのか、という点です。一因としては以下のような点が挙げられます:
現代のIT製品は非常に多くの機能を抱え、それぞれが独立したコンポーネントやサードパーティライブラリに依存しています。このため、コードベース全体の品質保証は極めて困難です。
脆弱性が修正されたとしても、現場の運用側が素早く適用しないと攻撃側に隙を突かれます。運用環境の稼働要件や互換性問題などが理由で、アップデートが遅れるケースは珍しくありません。
脆弱性が公開されても、その情報が即座に組織のIT担当者に伝わらず、修正の必要性が周知されるまでに時間差が生まれることがあります。
実際に起きている攻撃と企業への影響
脆弱性の怖さは、単に欠陥が存在するという事実だけではなく、実際に攻撃に悪用されることで実害が発生する点にあります。
たとえば、Fortinet製品に影響する認証バイパス脆弱性は、攻撃者が管理者権限を奪取し、**ネットワーク設定を変更したり、VPNアクセスを乗っ取ったりする事例も報告されています。**一部の分析では、数万台以上のデバイスがインターネット上で公開された脆弱性によって攻撃にさらされているという検出も報告されています。
SolarWinds製品でも、リモートコード実行の欠陥により、攻撃者がシステム内部に侵入し、任意の操作を行える可能性が指摘されています。こうした侵入はシステムの破壊やデータの窃取、サービス停止など、深刻な影響を及ぼす可能性があります。
脆弱性への備えと対策
■ 1. 継続的な脆弱性スキャンとインベントリ管理
自社の資産がどのようなソフトウェアやデバイスで構成されているかを常に把握し、脆弱性が公開された際に迅速に影響範囲を特定できる体制を整えること。
■ 2. 優先度に応じたパッチ適用ポリシー
検出された脆弱性の深刻度に基づき、迅速に対策を打つこと。クリティカルな欠陥は最優先で修正すること。
■ 3. セキュリティ監視の強化
リアルタイムでネットワークの異常を検出し、攻撃の兆候を早期に発見できるようにする。
■ 4. 教育と意識向上
IT運用チームやユーザーへの脆弱性への理解を深め、適切な運用が実施できるようにする。
まとめ:脆弱性は“なくなるもの”ではなく“管理するもの”へ
SolarWindsやFortinetに代表される既存製品の脆弱性の多発は、単なるニュースではありません。それは、現代のセキュリティ環境において必須の課題がどこにあるかを浮き彫りにしています。
脆弱性はゼロにできるものではなく、むしろ常に存在すると考えなければなりません。重要なのは、発見された脆弱性をどれだけ迅速に把握し、優先度を付けて対策を講じられるかです。これこそが、組織のセキュリティ強度を高め、攻撃者に機会を与えないための最も現実的な方法なのです。
データで見る中小企業の脆弱性対応
脆弱性への対応力は、統計にはっきり表れている。IPA「2024年度 中小企業における情報セキュリティ対策に関する実態調査」(2025年公表)によると、「OSやソフトウェアは常に最新の状態にしている」と答えた中小企業は73.0%である。裏を返せば、4社に1社以上は更新が追いついていない。SolarWindsやFortinetの事例のように、公開済みの欠陥が短期間で悪用される状況では、この差がそのまま侵入の可否を分ける。
修正の速さも指標になる。IPA「ソフトウェア等の脆弱性関連情報に関する届出状況[2026年第2四半期]」(2026年公表)によると、同四半期に修正が完了したウェブサイトの脆弱性18件のうち83%にあたる15件が、通知から90日以内に修正されている。一方で警察庁「令和7年上半期におけるサイバー空間をめぐる脅威の情勢等について」(2025年公表)では、同期間のランサムウェア被害報告116件のうち中小企業が77件を占め、過去最多となった。狙われる側の中心は、すでに中小企業である。
自社で見るべきは「更新できているか」ではなく「公表から適用まで何日かかるか」である。まず直近の緊急パッチ1件について、公表日と自社の適用日を並べて確認するとよい。
- ネットワーク機器・管理ツールの型番とバージョンを一覧化し、更新状況を月次で確認する
- クリティカル評価の脆弱性は、公表から適用までの目標日数をあらかじめ決めておく
- パッチ適用を保留する場合は、理由と代替策(アクセス制限など)を記録に残す
出典
- 独立行政法人情報処理推進機構(IPA)「ソフトウェア等の脆弱性関連情報に関する届出状況[2026年第2四半期(4月~6月)]」(2026-07公表) www.ipa.go.jp/security/reports/vuln/software/2026q2.html
- 警察庁「令和7年上半期におけるサイバー空間をめぐる脅威の情勢等について」(大阪府警察による紹介ページで内容を確認)(2025-09公表) www.police.pref.osaka.lg.jp/seikatsu/saiba/cyber_shiryou/cybersecurity_tsushin/7/22469.html
- 独立行政法人情報処理推進機構(IPA)「2024年度 中小企業における情報セキュリティ対策に関する実態調査」(有効回答4,191社・ウェブアンケート、2024年10月~2025年1月実施)(2025-05公表) www.ipa.go.jp/security/reports/sme/sme-survey2024.html
※ 2026年9月12日 に公的統計をもとに追記しました。

