「あの数字、誰が直したの?」共有フォルダのExcelファイルを開こうとしたら「使用中です」の表示。急いでいるのに編集できず、仕方なくコピーを作ったら、今度は誰かの入力が上書きされて消えていた——。複数人で同じExcelファイルを使う運用は、便利なようでいて実は限界を抱えています。
1. 複数人で同時に使えない・上書きされる原因
Excelはそもそも1人が編集することを前提に作られたファイル形式です。ネットワーク共有フォルダに置いて複数人で開くと、最初に開いた人だけが「編集可能」になり、後から開いた人は「読み取り専用」になります。急いでいる人ほど無理にコピーを作ってしまい、結果として入力データがバラバラになります。
共有フォルダの排他ロックは、人が意識してコントロールしているわけではありません。誰かが開きっぱなしで離席するだけで、他の人は何十分も待たされます。
更新履歴を残す仕組みも標準では弱く、「いつ・誰が・何を変えたか」が分からないまま上書きが起きます。バックアップも個人の判断任せのため、消えたデータを追跡できないケースも珍しくありません。
- Excelは単一編集前提のファイル形式で、同時編集の仕組みが弱い
- 共有フォルダの排他ロックが、待ち時間やコピー作成を誘発する
- 更新履歴やバックアップが個人任せで、誰が何を変えたか追えない
2. 今日からできる応急処置
すぐに実践できる対処法として、クラウドストレージの共同編集機能に切り替える方法があります。OneDriveやSharePoint上にファイルを置き、Excelのオンライン共同編集を使えば、複数人が同時に編集しても上書き事故を大幅に減らせます。
ただし共同編集はあくまで応急処置です。複雑な数式やマクロを使ったファイルでは動作が不安定になったり、スマホからの入力がしづらかったりする制約が残ります。恒久対策ではなく、次の一手までの「つなぎ」と考えてください。
- 共有フォルダのExcelファイルをOneDrive/SharePointに移す
- 「デスクトップ版で共同編集」を有効にし、関係者に使い方を周知する
- ファイル名に日付やバージョン番号を付けるルールをやめ、常に1つのファイルだけを正とする
- 入力担当・確認担当を明確にし、同時に同じ範囲を触らないよう役割分担する
3. 根本的に解決するには「Web化」が必要
Excelの限界を根本から解決する方法が、業務データをデータベース化し、ブラウザから使えるWebシステムに置き換えることです。Web化したシステムでは、複数人が同時にアクセスしても記録単位で排他制御がかかるため、他人の入力を上書きする事故が起きません。
誰がいつ何を入力・変更したかという履歴も自動的に残るため、「言った言わない」のトラブルも防げます。権限設定によって、閲覧だけできる人・入力できる人・承認できる人を分けられる点も、Excelにはない強みです。
検索や集計もその場でできるようになり、月末にExcelファイルを1つずつ突き合わせて集計するような作業自体がなくなります。
4. Web化を進める手順
「Web化」と聞くと大掛かりな開発を想像しがちですが、進め方を誤らなければ現場への負担を抑えて移行できます。次の手順で、優先度の高い業務から着手するのが現実的です。
一度にすべてのExcelを置き換えようとすると、現場の反発や移行漏れが起きやすくなります。影響範囲を1業務ずつに区切り、小さく始めて実績を積み上げる進め方が、結果的に一番早く定着します。
- 現状のExcel運用を棚卸しする(誰が・何を・どのタイミングで入力しているか)
- 最もトラブルが多い、または業務影響が大きい帳票・台帳を1つ選ぶ
- 入力項目とチェックすべきルールを洗い出す(必須項目、入力形式、承認フロー)
- 選んだ業務だけを先にWebシステム化し、現場で試験運用する
- 問題点を洗い出して改善したうえで、他の帳票へ段階的に広げる
5. よくある失敗と、自社でやる/外部に頼むの判断基準
Web化でよくある失敗は、現場の意見を聞かずにシステム部門や経営層だけで仕様を決めてしまうことです。実際に入力する担当者の使い勝手を確認しないまま作ると、結局「使いにくいから」とExcelに逆戻りしてしまいます。
もう一つの失敗は、Excelでできていた自由度(好きな場所に書き込める、独自の計算式を追加できるなど)をそのままWebシステムに求めすぎることです。Web化は自由度を制限する代わりに、正確性と同時利用を担保する仕組みだと理解しておく必要があります。
社内にExcelのマクロやAccessの開発ができる人材がいて、継続的に保守できる体制があるなら、まずは自社で小さく試すのも選択肢です。一方で、開発・運用を担う人材がいない、あるいは特定の担当者しか分からない属人化状態であれば、早い段階で外部の専門家に相談したほうが、結果的にコストも時間も抑えられます。
データで見る共有Excelの置き換え実態
クラウドへの移行はすでに例外的な選択ではない。総務省「令和6年通信利用動向調査」(2025年公表)によると、クラウドサービスを利用している企業の割合は80.6%で、過去10年でおよそ倍増している。同調査では、利用企業のうち効果が「あった」と回答した企業が88.2%にのぼる。共有フォルダのExcelをOneDriveやSharePointへ移す応急処置は、多数派がすでに通った道といえる。
一方で、業務そのものをシステムに置き換える段階では差が開く。日本政策金融公庫「中小企業のデジタル化に関する調査」(2024年公表)によると、デジタル化に取り組む中小企業のうち販売管理システムを導入しているのは62.1%で、ホームページ・SNS(88.5%)や会計システム(86.9%)より低い。東京商工会議所「中小企業のデジタルシフト・DX実態調査」(2026年公表)でも、最も多いのは「ITを活用して社内業務を効率化している」レベル3の38.1%だった。
自社の現在地は、この2つの差のどこにあるかで判断できる。クラウド共同編集まで済んでいるなら次は台帳のシステム化であり、まだ共有フォルダのままなら、置き換え先を検討する前にクラウド移行から着手するのが順序として確実である。
- クラウド利用企業は80.6%、うち効果が「あった」は88.2%(総務省「令和6年通信利用動向調査」2025年公表)
- 販売管理システムの導入率は62.1%で、会計システム86.9%より低い(日本政策金融公庫「中小企業のデジタル化に関する調査」2024年公表)
- デジタル活用段階の最多はレベル3「社内業務の効率化」38.1%(東京商工会議所「中小企業のデジタルシフト・DX実態調査」2026年公表)
- 共有フォルダのままか、共同編集まで進んだかで、次に取るべき一手は変わる
出典
- 東京商工会議所「中小企業のデジタルシフト・DX実態調査」(2026年3月25日〜4月15日実施、主に東京23区内の中小企業1,272社回答)(2026-06公表) www.tokyo-cci.or.jp/page.jsp?id=1209648
- 総務省「令和6年通信利用動向調査」(令和7年版情報通信白書に掲載)(2025-07公表) www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/r07/html/nd111210.html
- 総務省「令和6年通信利用動向調査」報道資料(2025-05公表) www.soumu.go.jp/menu_news/s-news/01tsushin02_02000178.html
- 日本政策金融公庫「中小企業のデジタル化に関する調査」(2024年1〜3月期実施、4,350社回答/日本商工会議所ニュース掲載)(2024-06公表) www.jcci.or.jp/news/news/2024/0605173117.html
※ 2026年9月12日 に公的統計をもとに追記しました。
まとめ
共有Excelの上書き・同時編集トラブルは、使い方の工夫だけでは根本的に解決できません。OneDriveなどでの共同編集は応急処置として有効ですが、恒久的な解決にはデータベース化したWebシステムへの移行が必要です。まず取り組むべき最初の一歩は、社内で最もトラブルが多いExcel帳票を1つ選び、誰が・何を・どう入力しているかを棚卸しすることです。
By Affelhansa Strategic Research

