「このAccessシステム、動いているけど中身が誰にも分からない」――そんな声を経営者や現場担当者から聞くことが増えています。作った担当者が退職し、仕様書も残っていない。少し直したいだけなのに、どこを触ると何が壊れるか誰も分からず、結局触らずに放置している会社は少なくありません。
1. なぜ仕様書のないAccess・VBAが生まれるのか
Access・VBAは元々、現場の担当者が業務の合間に少しずつ作り上げていくケースがほとんどです。最初は簡単な集計表だったものが、要望に応じてフォームやマクロが継ぎ足され、気づけば会社の基幹業務を支える仕組みに育っている、という流れが典型的です。
こうした「育てながら作る」開発は、その時々の担当者の頭の中にしか設計図がありません。文書化する時間も評価されることもないため後回しにされ続け、担当者が異動・退職するタイミングで一気に「誰も分からないシステム」に変わります。
さらにAccessはテーブル・クエリ・フォーム・マクロ・VBAコードが一つのファイルの中に混在する構造のため、外部の人間が中身を見ても、どこにどの処理があるのか把握しにくいという特性もあります。
2. すぐできる応急処置――触る前に必ずやること
仕組みが分からないまま慌てて修正すると、業務が止まるリスクがあります。まずは「壊さないための準備」を整えることが最優先です。
これらは専門知識がなくても今日から着手できます。応急処置の目的は「止めない・壊さない」ことであり、根本解決ではない点は意識しておいてください。
- 現在のmdbファイル(またはaccdbファイル)を日付入りでバックアップする
- 誰が・いつ・どの端末から使っているかを洗い出し、稼働状況を把握する
- エラーが出ている場合は、発生条件と頻度を記録しておく
- パスワードやVBAプロジェクトのロック状況を確認する
- 触る担当者を一人に決め、勝手に複数人が編集しないようにする
3. 中身を読み解く手順――仕様書がない状態からの棚卸し
応急処置の次は、システムの全体像を可視化する作業に入ります。仕様書がなくても、Access自体が持つ機能を使えば構造を洗い出すことは可能です。
この棚卸し作業は地道ですが、一度整理してしまえば「読める資産」に変わります。社内に知識のある人材がいない場合は、Accessの構造解析に慣れた技術者に依頼した方が、結果的に早く安全に進みます。
- テーブル一覧とリレーションシップ(表同士のつながり)を図に起こす
- クエリ(データの抽出・加工処理)が何を行っているか一つずつ確認する
- フォーム・レポートがどのテーブル・クエリを参照しているかを整理する
- VBAコード(処理を自動化するプログラム)を書き出し、処理の流れを追う
- Excelファイルの読み込みなど、外部システムとの連携箇所を洗い出す
4. 再発させない仕組みづくり
棚卸しをして終わりにせず、次に同じ状況を繰り返さない仕組みに変えることが根本解決です。
具体的には、洗い出した内容を簡易な仕様書としてドキュメント化し、担当者が変わっても引き継げる状態にすることが第一歩です。あわせて、老朽化したAccess・VBAを、複数人が同時に安全に使えるWebシステムへ移行することも選択肢に入れる価値があります。属人化そのものを構造的に解消できます。
特にAccessは個人のPCに依存しやすく、担当者のPCが壊れたら終わり、という脆弱な状態になりがちです。クラウド化やWeb化によって、特定の人・特定の端末に依存しない体制に切り替えることが、長期的な再発防止につながります。
5. 自社でやるか外部に頼むかの判断基準
すべてを自社で解決する必要はありません。判断に迷ったら、次の基準で考えてください。
「壊れてから頼む」のではなく「壊れる前に読み解いてもらう」方が、修正コストも移行コストも抑えられます。特に基幹業務に関わるシステムは、早い段階での判断が結果的に安く済みます。
- 業務が止まると売上や取引先対応に直結する→外部の専門家に早めに相談する
- 社内にAccess・VBAを読める人材が全くいない→棚卸しの段階から依頼する
- すでに動作が不安定・エラーが頻発している→自己判断で触らず先に相談する
- 軽微な集計ミス程度で緊急性が低い→まずは自社で応急処置を試す
データで見る中小企業の業務システム実態
日本政策金融公庫「中小企業のデジタル化に関する調査」(2024年公表、4,350社回答)によると、デジタル化に取り組む中小企業のうち販売管理システムを導入しているのは62.1%で、ホームページ・SNSの88.5%、会計システムの86.9%を下回る。会計や広報のように市販パッケージで賄える領域は導入が進む一方、販売・受注まわりのように自社固有のルールが多い業務ほど、Access・VBAでの自作が残りやすい。同調査では5年前と比べてデジタル化が進んだとする企業が69.6%に達しており、全体は底上げされているのに業務の中核だけが手つかず、という構図が見える。
総務省「令和6年通信利用動向調査」(2025年公表)では、クラウドサービスを利用している企業の割合は80.6%で過去10年におよそ倍増し、利用企業のうち88.2%が効果が「あった」と回答している。移行先となる環境は、すでに例外的な選択ではなく標準的な選択肢になっている。
自社の販売管理や受注処理が特定のAccessファイルに依存しているなら、それは統計上も移行が遅れやすい領域だと判断してよい。まず棚卸しで依存範囲を確定させ、そのうえでクラウド化・Web化の優先順位を決めるのが現実的な進め方である。
- 販売管理システムの導入率62.1%は、ホームページ・SNS(88.5%)や会計システム(86.9%)を20ポイント以上下回る(日本政策金融公庫「中小企業のデジタル化に関する調査」、2024年公表)
- クラウド利用企業は80.6%、うち88.2%が効果を実感(総務省「令和6年通信利用動向調査」、2025年公表)
- 自作システムが担う業務範囲を先に特定し、移行の優先順位を判断する
出典
- 総務省「令和6年通信利用動向調査」(令和7年版情報通信白書に掲載)(2025-07公表) www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/r07/html/nd111210.html
- 総務省「令和6年通信利用動向調査」報道資料(2025-05公表) www.soumu.go.jp/menu_news/s-news/01tsushin02_02000178.html
- 日本政策金融公庫「中小企業のデジタル化に関する調査」(2024年1〜3月期実施、取引先中小企業12,080社に調査・4,350社回答、回答率36.0%/日本商工会議所ニュース掲載)(2024-06公表) www.jcci.or.jp/news/news/2024/0605173117.html
- 日本政策金融公庫「中小企業のデジタル化に関する調査」(2024年1〜3月期実施、4,350社回答/日本商工会議所ニュース掲載)(2024-06公表) www.jcci.or.jp/news/news/2024/0605173117.html
※ 2026年9月12日 に公的統計をもとに追記しました。
まとめ
作った人が辞めたAccess・VBAは、仕様書がなくても構造を丁寧に棚卸しすれば必ず読み解けます。大切なのは、応急処置で止めない・壊さない状態を作り、根本的にはドキュメント化とWeb化・クラウド化で属人化そのものを解消することです。まずは今使っているファイルのバックアップを取り、誰が使っているかを洗い出すところから始めてください。
By Affelhansa Strategic Research

