前任者の退職や部署異動で、突然古いシステムの担当になった。中身がブラックボックスで、経営陣からは「もう古いから作り直そう」と言われるが、何から手をつければいいか分からない。そんな状態のまま大規模な刷新に踏み切ると、かえって業務が止まるリスクを抱え込むことになります。
1. 引き継ぎ直後に「作り直したい」と思ってしまう原因
保守移管の直後は、システムの全体像が見えていないことがほとんどです。設計書や仕様書が残っておらず、担当者の頭の中にしかロジックがない「属人化」状態だと、少しの不具合でも不安が大きくなり、いっそ作り直したほうが早いと感じてしまいます。
経営層は現場の細かい業務フローよりも、画面の見た目や動作の重さといった分かりやすい古さで判断しがちです。その結果、現場が本当に困っている箇所と、経営判断で「直すべき」とされる箇所がずれたまま計画が進んでしまいます。
さらに、引き継いだばかりの段階ではリスク評価ができません。どこが壊れやすく、どこが業務の生命線なのかが分からないまま大規模投資の判断をすると、想定外の業務停止を招く可能性が高くなります。
2. すぐできる応急処置:まず現状を記録する
作り直しを検討する前に、まずシステムの現状を可視化することが先決です。ここで焦って手を入れると、動いていた部分まで壊してしまう恐れがあります。
最初の1〜2週間は「触らずに観察・記録する」期間と割り切りましょう。
- 誰が・どの部署が・どの業務でシステムを使っているか
- 他のシステムやExcelファイルとどう連携しているか(依存関係)
- バックアップの有無と最終取得日
- 過去に発生したエラーやトラブルの頻度・内容
- 法令や取引先の要請で保存が必要なデータの範囲
3. 根本的な解決:優先順位をつけて段階的に改善する
現状が見えたら、次は「どこから改善するか」の優先順位づけです。すべてを一度に作り直す必要はありません。業務への影響度と発生頻度の2軸で整理すると、着手すべき箇所が自然と絞られます。
影響度が高く発生頻度も高い機能(例:日々の受発注処理や請求業務に直結する部分)から、部分的にWeb化やAPI連携に置き換えていくのが現実的です。古いExcelやAccessの業務をそのままWebシステムに移す方法や、販売管理システムとのAPI連携で二重入力をなくす方法など、影響範囲を区切った改善から始めると、業務を止めずに効果を検証できます。
一度にすべてを刷新しないことで、万が一不具合が出ても影響範囲が限定され、修正も容易になります。
- 業務への影響度と発生頻度で改善対象に優先順位をつける
- まずは影響範囲の小さい1機能から着手する
- 旧システムと並行稼働させながら結果を検証する
- 問題なければ次の機能へ、範囲を広げていく
4. 再発させない仕組み:属人化を防ぐ運用ルール
段階的な改善が一巡しても、次の担当者交代でまた同じ問題が起きては意味がありません。今回の引き継ぎで苦労した経緯を、そのまま次の仕組みづくりに活かします。
改善の過程で分かった仕様や業務フローは、その都度ドキュメント化するルールを決めておきましょう。担当者が一人しかいない状態(属人化)を避けるため、システムに関わる人を最低2名体制にしておくことも有効です。
半年〜1年に一度、システムの利用状況と依存関係を棚卸しする機会を設けておくと、次に担当が変わったときも今回のような手探り状態を避けられます。
- 仕様変更・改善内容はその都度ドキュメントに残す
- システム担当者を1人体制にしない
- 定期的な棚卸し(利用状況・依存関係の確認)を予定に組み込む
5. 自社で進めるか、外部に頼むかの判断基準
現状把握から段階的改善まで、社内にシステムの知識を持つ人材が確保できるなら自社で進めて問題ありません。ただし、担当者が兼務で手一杯になっている、あるいはシステムの専門知識が社内にないという場合は、無理に抱え込まず外部の力を借りる判断も必要です。
特に、旧システムの仕様調査や引き継ぎ時のドキュメント整備、Web化・API連携といった技術的な作業は、専門家が入ることで期間もリスクも大きく圧縮できます。社内SEの業務そのものを一部委託し、日常運用は社内、改善プロジェクトは外部というすみ分けも現実的な選択肢です。
データで見るレガシーシステムの保有実態
経済産業省「レガシーシステムモダン化委員会総括レポート」(2025年5月公表)によると、ユーザー企業の61%が老朽化・ブラックボックス化したレガシーシステムを保有しています。引き継いだシステムの中身が見えないという状況は特殊な事故ではなく、過半数の企業が同じ条件下で運用を続けているということです。作り直しの是非より先に、現状把握の手順を整えるべき理由がここにあります。
人材面の数字も判断材料になります。IPA「DX動向2025」(2025年10月公表)では日本企業の85.1%でDXを推進する人材が不足しており、帝国データバンク「人手不足に対する企業の動向調査(2026年4月)」(2026年5月公表)では情報サービス業で正社員が不足すると回答した企業が66.7%と全業種中で最も高い水準でした。社内にも委託先にも人員の余裕がない前提で考えると、全面刷新は要員を長期間拘束する選択になります。自社の担当者が兼務で、外部の増員も見込めないなら、影響範囲を区切った段階的改善から着手するのが妥当な判断です。
- 経済産業省「レガシーシステムモダン化委員会総括レポート」(2025年5月公表):ユーザー企業の61%がレガシーシステムを保有
- IPA「DX動向2025」(2025年10月公表):日本企業の85.1%でDXを推進する人材が不足
- 帝国データバンク「人手不足に対する企業の動向調査(2026年4月)」(2026年5月公表):情報サービス業の正社員不足66.7%で全業種中最も高い
出典
- 帝国データバンク「人手不足に対する企業の動向調査(2026年4月)」(2026-05公表) www.tdb.co.jp/report/economic/20260519-laborshortage202604/
- IPA「DX動向2025」(調査分析ディスカッション・ペーパー2025-02「DX動向2025-AI時代のデジタル人材育成」)(2025-10公表) www.ipa.go.jp/digital/chousa/discussion-paper/dx2025_digital_talent_ai_era.html
- 経済産業省「レガシーシステムモダン化委員会総括レポート」(IPA公開ページ)(2025-05公表) dx.ipa.go.jp/modernization
※ 2026年9月12日 に公的統計をもとに追記しました。
まとめ
引き継いだシステムは、いきなり作り直すのではなく「現状把握 → 優先順位づけ → 部分的な改善」の順で進めるのが鉄則です。この順序を守ることで、業務を止めるリスクを抑えながら、確実に使いやすいシステムへ近づけていけます。まず取り組むべき最初の一歩は、誰が・どこで・どう使っているかを洗い出す現状把握のチェックリストづくりです。
By Affelhansa Strategic Research

